歯並び異常と、噛み合わせ異常は、似ているようですが、若干違います。
歯並びの異常は、発育異常、見た目の異常と言え、機能的には、ほとんど問題はありません。噛み合わせの異常は、機能的な異常のことをいい、見た目の異常を伴うこともあります。
噛み合わせの異常があると、歯と歯の間が虫歯になったり(接触点齲蝕)、歯と歯茎の境目のあたりにくさび状の欠損が起こったり、冷たいものがしみる(知覚過敏)ことがあります。また、局所の抵抗力の低下が起り、プラークがあると、歯周病が進行します。
あごの関節のあたりに何かの症状を訴える病気(顎関節症)になることもあります。
[歯並び・噛み合わせの異常の原因]
歯並び異常は、先天的要素(遺伝)と、後天的要素があります
上顎前突(出っ歯)・下顎前突(うけ口)・八重歯・乱杭歯などの歯並び異常は、ほとんどが顎の骨の劣成長が原因で起こります(後天的要素)。
逆に、顎の骨の過成長が歯並び異常の原因になることもありますが、ホルモン異常など、遺伝的要素が強いようです。
ここでは、後天的要素としての顎の骨の成長について述べます。
上顎骨と下顎骨
歯並び異常は、(遺伝的にある程度決まっている)歯の大きさに比べ、顎の骨が小さいことで起こります(これをディスクレパンシーといいます)が、骨の成長は上顎の骨と下顎の骨では全く異なります。
上顎骨は、頭骸骨の一部で、目頭から口まで、顔の半分を占めており、脳が発育するときに活発に成長し、また、歯の萌出時期と同調して成長し、顔面を形成していきます。
上顎骨は成長点が後方にあり、成長につれて骨全体が前方に出てくるため、鼻が高く彫りの深い顔になります。
つまり、上顎骨を十分に成長させることで、顔のつくりの深い(鼻の高い)美人・イケメンに育っていくわけです。
下顎骨は、上顎骨と違って、体のほかの骨と同じく身長が伸びるとき(特に第二次成長期)に成長します。(噛む習慣が成長期までに備わり)上顎骨が正しく成長すると、通常は、自然に正しく成長し、歯並び異常は起こりません。
ところが、下顎骨は頭蓋骨からぶら下がっている骨の為、姿勢によって位置が変化します。
成長期に悪い姿勢が続くと顎の位置異常が起こり、上下の顎の骨の成長にアンバランスが生じます。
そのため、噛みあわせ異常がおこり、歯並び異常につながるのです。
食事の時の姿勢が大事になるのはこういう理由ですし、猫背などの悪い姿勢や頬杖などの悪い習慣も上下顎骨の位置異常を起こし、顎の骨の成長に悪影響をもたらします。
顎骨の劣成長の原因
顎の骨の劣成長がどのようにして生じるのか、はっきり証明されたわけではありませんが、一種の廃用性萎縮ではないかと言われています。
すなわち、食べ物が軟らかくなったせいで、あまり噛まなくて済むようになり、噛むことによる刺激が不足して、成長が不十分になったと考えられているのです。
本来人間が食べてきた食べ物が、加工食品の急激な増加に伴って軟化し、それが顎の骨の劣成長に繋がったというのです。
人間は、個人個人、みんな違いますから、成長発育や病気は、はっきりと原因を特定することができません。
歯並び異常が起こってから治すには、矯正治療しかありませんから、こういった仮説をもとに、歯並び異常の予防法を述べてみます。
歯並び異常を予防し育てる方法
- 母乳で育てる
生まれたばかりの赤ん坊にとって、お乳を吸うことは大変なことです。
顎や舌を動かし、真っ赤になりながらおっぱいを吸う作業は、口の筋肉やあごの骨を通じて脳に伝わり、顎の骨を成長させていきます。
一方、哺乳瓶での授乳は、力を使わなくてもミルクが入ってくる上、逆に、ミルクを飲みこむときに哺乳瓶からの流入を止める必要があるため、本来とは違った筋肉を使うことになり、脳に適切な刺激が伝わらないとされています。できるだけ母乳で育てることが、歯並び異常を予防する第一歩と言えるでしょう。 - 離乳は段階を追って
物を食べ、飲み込む、咀嚼・嚥下という作業は、本能的にできそうに思われますが、離乳という段階を経て、口の周りの筋肉と神経系の反射を育て、段階的に学習しないとうまくできないということがわかってきました。
噛む→飲み込むという作業を学習しないと、固形物が噛めない、うまく飲み込めないという状態のまま育ち、顎に刺激が伝わらないため、歯並び異常を起こすばかりか、飲み物で流し込まなければ食事ができないようになってしまいます。
昔から行われてきた離乳という作業を、ゆっくりていねいに行う必要があります。 - 良く噛む習慣をつけよう
離乳がうまくいかないと、なかなか物がうまく食べられなくて食事に時間がかかってしまいます。
忙しい毎日の中で子供の食事をせかしてしまいがちですが、子供にとっては大切な学習の時間です。
ゆとりをもって、ゆっくりよく噛む習慣を作ってあげましょう。将来、矯正治療が必要になったり、一生歯の病気で苦しむことのない、きれいな歯並びに育てることに繋がります。 - 食事の時の姿勢に気をつけよう
食事の時も子供はすぐに飽きて、遊んだり、少しもじっとしていません。
ある程度の年齢に達したら、食事の時の姿勢やマナーを教えることも(歯並びを正常に育てる意味でも)大切な教育(食育)です。
食事中テレビが点いていると、その方向に顔が常に向いてしまうため、顎や顔が曲がってしまうことが分かっています。
きちんとした姿勢で食事をすることは、歯並び異常を予防するうえでも、とても大切です。 - 口を閉じて鼻で呼吸させよう。
授乳期に十分上顎骨が成長しなかったり、蓄膿症(副鼻腔炎)などの病気で鼻呼吸ができず、口で呼吸する癖がついたり、いつもぽかんと口をあけていると、口の周りの筋肉が発達せず、歯並び異常が起こります。
口を閉じて鼻で呼吸ができるよう、意識したり、耳鼻科の治療を受ける必要があります。 - よく歩く、体を動かす
直立二足歩行は、人間だけが獲得した体の形態です。
「個体発生は系統発生を繰り返す」と言われます。
受精卵から、魚のようになり、人の形になって生まれ、哺乳類の赤ちゃんから、徐々にハイハイするようになり(4足動物段階)、つかまり立ちからよちよち歩きになり(猿の段階)、
歩くことで脊椎にS状湾曲ができて、ヒトという動物になります。
赤ん坊として生まれるまでは他の動物と同じですが、子育ての段階できちんと段階を踏まないと正しく成長できません。
特に、猿の段階(ぶら下がり)と、ヒトの段階(歩行)は、噛み合わせやあごの成長に密接に関係します。
幼児期のいろいろな遊びや運動は、健康な体と歯並びを作る上でとても大切なのです。